ぶどうの葉からこぼれる陽の下、収穫間近のぶどう園で、 おそるおそる袋を外す時のどきどき感は言いようもない。
一粒一粒が生命力にあふれて瑞々しく、透きとおった粒がはちきれんばかりに押し合っていて、子供のころ、久しぶりにあけた宝箱が、お気に入りのものであふれているような、そんな満足感。
(もちろん、きれいな房ばかりではなく、がっかりしょんぼり感もおなじだけ)
ぶどうは、くだものの中で唯一、ひとの手でかたち作ることができる。
「房切り」といって、ちいさなちいさな花が咲きはじめるとすぐに、10センチ以上ある花房を3~4センチほどにちいさく整える。
そのあとに「摘粒」。花が終わり、実が5ミリほどのちいさなつぶつぶになり始めたら、房の中の実をバランスよく、実が大きくなった時にむぎゅっとするよう想像しながら、25~40粒(品種による)だけ残して、ハサミでつぶつぶを取り除いていく。
その合間合間に、種をなくし、実を定着させるための植物ホルモンのシャワーをひと房ずつに浴びせ、つぶつぶがまた少し大きくなったら、バランスを整え、キズのある粒を除き・・・そして、ひと房ずつに袋をかぶせ、日焼けしないよう、高温になりすぎないよう、傘をかけ・・・
同時に、余分な枝や梢や葉を落とし、木のもつエネルギーを実に一番届くようにしていく。
毎日毎日、気の遠くなるような作業を、ひたすら繰り返す。
ぶどうの実を放っておいたら、長さが30センチをこえる大房になり、おいしくない。
手をかければかけるだけ、甘く、濃く、おいしく、きれいなかたちの宝石のようなぶどうになる。
だからこそ作りがいがあり、作り手のちからがはっきりと出る。
ぶどうの品種
巨峰(種なし)
ぶどうの代名詞ともいえる、ぶどうの王さまです。
10年ほど前までは、巨峰には種があるのが当たり前でしたが、今は食べやすさから種なし巨峰の人気が高くなりました。
ムクノモリでは、種なし巨峰のみを栽培しています。
濃厚でしっかりとした甘みと酸味、きっと誰もが懐かしい味です。
ひと房が400~500gで、大きすぎず、小さすぎず、一粒一粒が存在感を持つように、また、木の持つ自然な力を安定させ、味に深みのある実を付けられるよう育てています。
粒が真っ黒に近いほど、酸味が少なく、甘みが強いものです。
皮は少し厚みがあり、渋みもあるので、むいて食べることが多いかと思いますが、皮にはポリフェノールが豊富に含まれているので、少しもったいない気もします。
たまには皮ごとお試し下さい。
房から一粒ずつはずし、洗って冷凍しておいて、皮ごと巨峰シャーベットとして食べると、渋みも気にならずおすすめです。
ナガノパープル
(皮ごと/種なし)
2005年から市場に出始め、長野県オリジナルの、希少な種なし品種です。
両親は「巨峰」と「リザマート」
粒が大きく、ひと房が500~600gになります。
皮が比較的うすく、皮ごと食べられるので、噛んだときに皮がぷちっとはじける食味のよさと、果肉の持つ強く濃厚な香りと甘み、皮の渋みと酸味が口の中で調和し、おいしさのバランスがとびきり良いぶどうです。
ひと房皮ごと食べると、ワイン1本分と同等のポリフェノールが取れるとか。
また、血圧を下げる効果のあるGABAが含まれており、生のぶどうとしては初めて「機能性表示食品」として認められています。
皮がうすく実が大きいために、栽培はなかなかむずかしく、裂果(実が割れること)しやすい品種です。
房が多すぎても、大きすぎてもだめ、
実が多すぎても、大きすぎてもだめ、
水が多すぎても、少なすぎてもだめ、と、
わがままなほど、愛着もひとしおのこどものようです。
シャインマスカット
(皮ごと/種なし)
2006年に品種登録され、今では絶大な人気を誇る品種です。
粒が大きく、ひと房が400~600gになります。
マスカットならではの、さわやかで豊かな香りと、強い甘みが特徴です。
濃い緑色よりも、黄色みがかったものほど完熟している証拠。
種なしで、皮がごく薄く、丸ごと食べられ、果肉はしまって食味がよく、日持ちもよい、文句なしのぶどうです。
大粒の実を噛んだときにぷちっとはじける食感、同時に口いっぱいにひろがるマスカットのさわやかな香りと甘み、つい手が止まらなくなります。
比較的育てやすい品種ではあるものの、木の元気がよすぎるので、枝の管理など樹勢コントロールに気を使います。
また、一粒一粒が少し縦長のため、巨峰やナガノパープルのようにきれいな房をかたちづくるには、なかなかのワザが必要です。